創薬研究の未来を切り拓くオミックス解析 
~多層オミックス解析によるメカニズム探索~
公開日 2020年12月21日
#オミックス #メカニズム探索 #臨床応用 #創薬研究に新たな打ち手を

Axceleadでは、創薬研究に必要な先端プラットフォーム技術の拡充にも力を入れており、中でもこの10年で大きく研究の裾野が広がったオミックス解析についてご紹介します。創薬研究者ならではのこだわりや今後の展望など、新たな時代を感じるインタビューとなり、私も非常にワクワクしました!

1.研究者ドリブンからデータドリブンの創薬研究へ?!

まず始めに素人質問で恐縮ですが、オミックス解析とはなんですか?

安藤:生体内分子を網羅的に調べることをオミックス解析と言います。解析の対象がタンパク質の場合はプロテオミクス、代謝物の場合はメタボロミクス、脂質の場合はリピドミクスと呼んでおり、私のグループでは質量分析装置を用いて解析するこの3つを担当しています。

オミックス解析は、メカニズム探索にどう役立つのでしょうか?

安藤:例えばあるターゲットに作用する化合物がタンパク質の活性を調節し、その結果代謝物を変えることで薬効を発揮するというケースがあります。この場合は、mRNAやタンパク質の発現量が変動せず、メタボロミクスで網羅的に代謝物を解析しないと、真のメカニズムを見つけることはできません。潜在的な薬効薬理のメカニズムを考える際は、mRNAだけ、タンパク質だけ、または代謝物だけでは見落としの可能性があるので、メタボロミクスやリピドミクスも含めて探索することが重要になります。研究者に依存せず、全体像をとりにいく網羅的データだからこそ成せる技ですね。


次世代シーケンサー、および質量分析技術での網羅的データ取得は生命現象の理解に重要なmRNA、タンパク質、代謝物の全体像を限られたサンプル量から一度の解析で取得することを可能にし、大幅な実験時間とコスト削減につながった。さらにこれらの相互参照により、見落としの少ない、より信頼性の高い統合的なメカニズム探索が可能になった。メタボローム、プロテオームを解析することを、それぞれメタボロミクス、プロテオミクスと呼ぶ。

研究者に依存しない?!でも膨大なデータが出てくる中で、どう抽出して解釈するかは、研究者に依るところが大きいのではないですか??

安藤:オミックス研究は今日・明日で誰でも始められるものではないですし、取れるデータも非常に複雑で、分析系の立ち上げも簡単ではありません。しかし最近は、膨大なデータを処理して客観的に解釈するツールが増えているので、適切なツールを用いれば、研究者の主観をできるだけ排除して解釈することができます。研究者の力はもちろん大きいですが、一人の研究者が知っていることには限界があります。その中で仮説を立てても、見落としが生じて答えに辿り着かないこともあります。個の知識に依存せず、網羅的なデータを客観的に解釈するデータドリブンな研究が、メカニズム探索の精度を上げる鍵ではないかと考えています。

なるほど。では、メカニズム探索の際は、プロテオミクス・メタボロミクス・リピドミクスの3つをセットで解析するのが基本ですか?

安藤:理想を言えば3つ全てやりたいケースもありますが、そうなるとコストが高いです。なので、ここは研究者の腕の見せ所ですね。「お客様が考えている仮説なら、この解析をしたら良いのではないか」と、コストを抑えて取りこぼしの無いご提案をすることを心掛けています。

どの網羅的データをとるか、どのツールで解釈するか、その全体像の戦略を立てる水先案内人になれるということでしょうか?

安藤:そうですね。我々の強みは、製薬会社で経験を積んできた創薬研究者であることです。創薬プロジェクト特有の課題が分かっていますし、実際のプロジェクトの中で解析を重ねてきたからこそ、日々進化するツールの中からどれが本当に使えるのか、我々の研究データに一番マッチするのかが分かります。悲しいですが、我々がプロテオームの研究でノーベル賞を取ろうと思っても無理です。その代わり、これまで培ってきた創薬研究の経験で勝負したいと思っています

2.打ち手の無い研究へ活路を見出す

オミックス研究が具体的に創薬研究に貢献した事例を教えてください。 
安藤:ある遺伝性疾患の研究をされている先生に、リピドームとメタボローム解析をご提案し、モデルマウスで実験を行ったところ、有効な治療法の仮説を立てることに成功しました。その研究自体は20年程続いていましたが、ほとんどオミックス研究はされていない分野でした。そこにオミックスを当てはめてみたら、疾患の全体像が分かり、その結果治療法まで見つけることができました。

20年停滞していた研究を数か月で前に進めることができたんですか! 
安藤:研究は何でもそうだと思いますが、他の人がやっていないことをやるのが重要だと思います。オミックスは、打ち手が分からない時こそ強いツールです。今まで研究を続けてきて行き詰っている場合や、ストップしていたプロジェクトを再開させたいという場合は、ぜひ一度オミックスをご検討頂くと、新たな活路が見出せるかもしれません。

進行中のプロジェクトに対しては、どのような活用が考えられますか?
 
安藤:リード化合物創出から最適化のステージで強く求められるのは、コンセプトが正しいことを示す証拠です。ヒトで効きそうであることを示唆するデータが無いと、会社は臨床までの莫大な研究開発費を投資できないですよね。非臨床モデルを用いたメカニズム探索で、治療仮説の妥当性を検証することは、その点をクリアする上で重要な判断材料になります。
また導出を検討されている場合には、「こういうメカニズムで効いています」という具体的な説明ができるようになると、導入候補の企業やファウンダーにとって非常に魅力的です。メカニズム探索は、開発候補化合物の付加価値向上にも大きな役割を果たすと思います。