AxceleadのhERG current アッセイの魅力に迫る! ~心機能毒性評価のベストパートナーを目指して~
Axceleadでは、全自動高速パッチクランプ装置 SyncroPatch 384PE(Nanion社)を用いたhERG current アッセイ サービスを開始しました。探索・リード化合物最適化フェーズでhERG アッセイを行う意義やAxceleadのサービスの特徴など、心毒性のエキスパートである高砂主席研究員にお話を伺いました!
2020年4月1日INTERVIEW_01
高砂 浄
1983年金沢大学薬学部薬学研究科修了後、第一製薬株式会社、第一三共株式会社、第一三共RDノバーレにて in vivo 安全性薬理、及び in vitro 安全性研究に従事。 2019年3月より現職。 (Integrated & Translational Research 主席研究員。薬学博士) CSAHi (Consortium for Safety Assessment using Human iPS Cells) にて hiPS 由来心筋細胞を使った安全性研究チームリーダー。
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1開発Go/No go decisionにも大きく影響を与えるhERGアッセイ
高砂さん、本日はよろしくお願いいたします!早速ですが、hERGアッセイは、臨床PhaseⅠ試験実施前の必須GLP毒性試験に位置づけられていますよね。どうしてそんなに重要なのでしょうか?
半世紀近く原因が不明であった薬剤誘発性心突然死と深い関係があります。この心突然死を引き起こす薬物群の98%が、心筋細胞内のhERGという遺伝子でコードされているK+チャネルに結合して、K+電流(hERG電流)を阻害していることが分かりました。 すなわちhERG電流が阻害されると、心電図のQT間隔延長を起点として心突然死(致死性不整脈)が引き起こされることが明らかになったのです。そこで、hERG K+チャネルと候補化合物の相互作用を評価する“hERG アッセイ”が、ヒト臨床試験実施前の必須試験として提案されました。化合物がK+チャネルを阻害しているかどうかを調べる方法は色々とありますが、最も生理的な条件下で実際に流れるhERG電流への影響を最も正確に評価できる“hERG current アッセイ”がgold standardになっています。
なるほど。ヒト臨床試験直前まで進んで致死性不整脈誘発リスクが見つかると、それまでの苦労が水の泡ですね…
そうですね。この毒性プロファイルは、安全性評価の中でも開発キラーとなるので、できるだけ研究開発初期の段階でリスクを回避することが重要です。今回、初期探索研究のお客様のお役に立てるよう、高速かつ低コストで高品質のスクリーニングを行うことができるアッセイを構築しました。hERG アッセイに限らず、私の担当は研究開発初期に実施する in vitro 毒性スクリーニングですので、“上手く・早く・安く”をモットーにしています。また、測定やデータ提供にとどまらず、これまでの創薬研究の経験を活かして、試験結果のリスク判断やその後の研究開発戦略立案を積極的にサポートしたいですね。
2研究初期の少ない化合物量でも高い成功確率で
心毒性評価をサポート!その秘訣は・・・
“上手く・早く・安く”というお話がありましたが、実験が上手くいった・いかなかったってどう判断しているんですか?
お客様に高品質のデータをご提供するために、試験条件やデータ採用基準に様々な厳しいクライテリアを設けています。例えば、シール抵抗値*や流れる電流量の大きさ、あるいは安定性などです。私達は、384個のウェルを持つプレートを用いていますが、最下段は最も圧がかかりやすく、細胞にダメージを与えてしまうため、最下段以外の360ウェルで実験をしています。この個々のウェルについて、設定した厳格なクライテリアを全てクリアしたウェルを“実験成功”と判断し、お客様にご提供しています。
*: シール抵抗値:細胞膜と電極が隙間なくできるだけ強固に接合していないと、電流が漏れ、正確な電流値を図ることができないため、どれだけきちんと接合しているかを測る指標となる。
厳しいクライテリアを満たすために重要な要素はなんでしょうか?
一つは培養している細胞の質・取り扱い、もう一つは今回導入したSyncroPatch 384PEですね。一点目については、細胞の頑健性や適応性、また細胞に負荷をかけない試験条件などを考慮していますが、 細胞は増殖能力は高いものの小さな脆弱な生物なので、“普段は愛情をこめて優しく扱いますが、ここぞという試験時はがっちり捕まえて!”という扱い方が大切です。恋愛と同じですね(笑)。今は4名の女性メンバーがこの試験を担当していますが、彼女達は細胞の扱いがとても上手なんです。愛情をこめて丁寧な仕事をしてくれるから細胞も優しく逞しくなるんですかね?
なるほど!素人なりに事前リサーチしていた時は、SyncroPatchが重要だと思ってましたが、細胞の取り扱い方も肝になるんですね!
細胞の取り扱いも大事ですし、もちろんSyncroPatchも素晴らしい機械です。 SyncroPatch 384PEに関して言うと、ホウケイ酸ガラス製のチップ基材(プレート)を用いているので、アッセイウェルが化合物を吸着しにくいという特徴があります。化合物を調製するプレートの材質も大切で、ポリプロピレンなどのプレートだと、薬液調製後の時間経過に伴いhERG 電流阻害濃度が大きく異なってくる(薬物吸着により薬液濃度が減少する結果と推察)というデータも出ています。ガラスプレートは価格が高いのですが、Axceleadではお金を惜しまずガラスプレートを採用することで、SyncroPatch 384PEの本来の魅力を最大限に生かしながら常に高品質なデータ提供をめざしています。
研究初期のフェーズでは、お客様がお持ちの化合物量は少ないと思いますが、
それでも測定はできるのでしょうか?
プレートのウェル数が増えれば増えるほど、1つのウェルに入れる薬液量が少なくて済みます。マニュアルパッチのように、1分間に何mLも灌流するような方法だと、ある程度の化合物量が必要になりますが、SyncroPatchの384プレートでは、少量の化合物量でもマニュアルパッチクランプ法に匹敵する高品質のデータを高速でご提供できます。ちなみに、通常10 mM DMSO溶液を26 μLご提供いただき、1~30 μMの範囲で4濃度評価を行っています。
3AxceleadのhERGアッセイは、スピーディーで低価格!
化合物受領から1週間でデータをご報告!
現在のアッセイ体制を教えてください。
毎週定期アッセイを実施していて、再測定がない場合には化合物受領後7日以内のご報告を基本としています。自社でオートパッチクランプシステムをお持ちのところもありますが、社内の混み具合や効率化の点からAxceleadに依頼してくださるお客様もいます。私の経験でも、海外のラボに依頼すると、化合物を送付してからデータが出てくるまで1か月は掛かっていましたね。
1週間は早いですね!
評価スピードが早い秘訣の一つに、“薬液累積投与評価”があります。通常、1ウェル1濃度添加で評価する施設が多いですが、Axceleadでは1ウェル内の同一細胞に5分間隔で段階的に高い濃度の薬液を4濃度累積的に添加して評価しています。この方法だと、1枚のプレートで、より多くの種類の化合物を評価できるんです。例えば、1ウェル1濃度添加で評価すると、384ウェルプレートで評価できるのは17化合物ですが、累積投与の場合は70化合物評価できます。すなわち使用する高額なプレートの数を減らすこともできるので、高いスループットのみならずコスト低減にも繋がります。
4濃度累積投与の方が技術的には難しいんですか?
測定時間が長くなるので、その分長く電流が安定する条件を見つけなければいけない点で苦労しました。薬剤1濃度5分で評価していますが、単回投与なら、5分間安定している条件を見つければ実験が終わりますが、4濃度累積投与の場合は、20分間安定する条件を見つけなければいけません。メンバーの知識・経験・忍耐、そしてチームワークで乗り越え、現在は安定したデータを取得できるようになりました!
経験豊富な皆さんだからこそ成せる技ですね!
実はもう一つ、Axceleadの特技があります!“凍結hERG 強制発現細胞”を使用して、長期休暇後も迅速に評価が可能なところです。通常、凍結させておいた細胞を起こしても、チャネルの発現が安定せず、すぐには実験ができません。培養・継代という作業を繰り返しチャネルの発現が安定したところでやっと実験が開始できます。例えば通常夏休みや冬休みなど長期休暇に入ると培養・継代を止めるので、休み明けは実験開始まで1~2週間はかかります。でも、Axceleadでは、自前で作製した凍結細胞を使って、長期休暇明けの翌日から実験ができるんです!この様な優秀な細胞を作製できる理由は正直よく分からないので、実験担当者が構築・維持しているこのアッセイ系のどこにノウハウがあるのか突き止めるのが私の責務かもしれません(笑)。私は他社から来ましたけど、ready to useの凍結細胞でこのアッセイをやっている施設は珍しいので正直驚きました。私の様なおっさんには真似できないスキルですね(笑)。