創薬研究の未来を切り拓くオミックス解析
~多層オミックス解析によるメカニズム探索~

3創薬研究に必要な最新技術×データ品質へのこだわり

Axceleadのオミックス解析について伺っていきます。
まずプロテオーム解析の特長を教えてください。

サーモフィッシャーサイエンティフィック社の質量分析計
サーモフィッシャーサイエンティフィック社の質量分析計

一般的な発見量解析に加え、網羅的なたんぱく質リン酸化、タンパク質-タンパク質または化合物-タンパク質複合体データを取得・解析することが可能です。例えば、医薬開発ではリン酸化酵素がターゲットになることがよくありますが、 タンパク質のリン酸化状態が狙い通り上がっている(もしくは下がっている)のか、更に細胞内で起こるリン酸化シグナリングの全体像もわかります。また、タンパク質の相互作用の状態を捉えることも生物学的に重要であることが明らかになってきました。相互作用を評価することで、タンパク質AとBが結合している時は活性があり望ましい表現型を出すが、離れると活性が無くなるという作用機序を見つけることもできます。これらの相互作用やリン酸化状態は、次世代シーケンサーを用いたmRNAの解析では評価できないので、プロテオミクスの中でも特に重視しています。

そこまで調べるには、相当なサンプル量が必要になってくるんですか?

Axceleadでは、サブμgの微量タンパク質抽出物も解析できる技術があります。複合体解析の場合、100万個の細胞のサンプルから抗体で一部のタンパク質だけを釣って解析しなくてはいけないので、サンプル量はほとんどありません。我々は前職時代から長年検証し、微量なサンプルでもしっかりデータが取れるプロトコルを確立してきました。0.1μgのタンパク質抽出物をサンプルに、最大で1500種のタンパク質を同定・定量可能です。
またもう一つご紹介したいのが、FFPEサンプル(ホルマリン固定切片)の解析技術です。バイオバンク*が保管している臨床サンプルを用いて、疾患の原因を解明する研究が進んでいますが、これらの多くはホルマリン固定されているサンプルです。これまでは、ホルマリンでタンパク質が変性してしまい解析が難しいと言われてきましたが、AxceleadはFFPEにも対応可能な解析技術があります。元々は、安全性試験で、試験後に異常所見が出た際に、そのメカニズム解明に用いるサンプルがFFPEしかないことから、この技術を確立しました。前職ではこの技術を用いて、in vivo試験の異常所見についてメカニズムを明らかにし、プロジェクトを前に進めた経験もあります。
※バイオバンク:研究目的で使用するために、患者さんから採取した臨床サンプルを保管する機関

幅広いサンプルに対応可能なんですね!
データの信頼性といった点で、何か工夫されていることはありますか?

プロテオームに関しては、安定同位体標識技術を取り入れています。サンプル内のタンパク質を切断してペプチドにし(ペプチド分画技術)、その全てのペプチドについて安定同位体で標識する技術です。この技術のおかげで、全てのペプチドに対して、データの基準となるシグナルを揃えることができるので、基準に対して何倍増減したか、様々なサンプルと比較評価することができます。コストがかかる技術ではありますが、データの信頼性、比較精度を担保するために取り入れました。

Axeleadの メタボローム解析にはどのような特徴があるのでしょうか?

従来の研究の中心であったヒト・哺乳類の代謝経路に加えて、共生細菌叢由来イオウ代謝経路もカバーするwide target型の分析が大きな特徴ですね。

共生細菌叢由来イオウ代謝経路とはなんですか?!

ヒトの体に共生する微生物を共生細菌叢(マイクロバイオーム)と呼びますが、腸内に生息する細菌叢が代謝物を作り出し、その代謝物がヒトに取り込まれて健康に影響を与えているのではないかと考えられています。最近話題の腸活もその一つです。イオウ代謝物もそうですが、ヒトにはなくて菌だけが持っていると考えられていた代謝物が、実際に解析してみるとヒトの細胞にも存在することが判明しました。しかもその代謝経路をいじると生命現象に影響が出ることまで分かってきました。これまでは代謝物の構造の問題から測定自体が困難でしたが、東北大学の先生方が課題をクリアする方法を見つけ、Axceleadではその分析系の移管を受けて測定できるようになりました。

新たなメカニズム解明に繋がりそうですね!

サイエックス社の質量分析計
サイエックス社の質量分析計

そうですね。その他の特徴としては、 検出可能な代謝物の範囲が広いことが挙げられます。Axceleadでは、約540種の代謝物を対象としたwide target型解析技術を持っていますが、標的型の分析系で540成分測定できるのは珍しいと思います。見落としなく、できるだけ代謝物の全体像を捉えて解析するためには、標的型で540種類の代謝物を揃えることが重要で、その結果、信頼性や再現性の高いデータ取得が可能になりました。

Axeleadのリピドーム解析についても教えてください。

サーモフィッシャーサイエンティフィック社の質量分析計
サーモフィッシャーサイエンティフィック社の質量分析計

Axceleadのリピドーム解析では、 従来のflow injection analysisに代えて、liquid chromatographyを取り入れたことにより、より微量な脂質の解析が可能になりました。flow injection analysis の場合、サンプルに含まれる脂質の種類が多すぎて、今の分析装置では全ての情報を得られないという課題がありました。そこで、liquid chromatographyという技術でサンプル中に含まれる成分を分離し、測定することで、量の少ない脂質も検出できるようになりました。この技術により、31種類という広範囲の脂質クラスが評価可能になった点は大きな強みだと思っています。

頼もしいですね!
お客様にサービスをご提供する中で、大事にされていることはなんでしょうか?

“解釈に値するデータを取る”ということを常に念頭においています。オミックスで出てくるデータは複雑なので、正しくデータが取れているのか判断が難しいこともあります。そのためAxceleadでは、過去に測定したデータと比較して同じ分子が見えているのか、成分分析中の安定性はどうかを厳しく見ています。同じサンプルを繰り返し測り、グループ内でも「これはデータのバラツキが大きいので外しましょう、これでものを言うのは難しいですよ」という議論をよくしていますが、「ここまでやっている会社ないですよ」とよく言われます(笑)。網羅的解析の分野では、見えるものを増やしたいという志向が強い傾向にあります。もちろんその点も重要ですが、創薬研究はヒトの健康に関わるデータなので、データの信ぴょう性、再現性を担保することを何よりも重視して、システムを構築しています。

4薬ができない現状を打破するオミックス解析
~臨床応用を目指して~

昨今ニューモダリティへの注目が高まっていますが、
オミックス解析との相性はどうでしょうか?

メカニズム探索という目的では、投与するものが違えど計測するサンプルとしては変わらないので、モダリティに制限はないです。一方で、メカニズム探索からは話が逸れますが、細胞医薬品やタンパク質医薬品の実用化には“品質管理”が一つの課題となっていて、そこにオミックス解析が寄与できる点は大きいです。品質管理マーカーを探したい、もしくはマーカーはないので全体像を確認したい、発現系の不純物を探したいといった場合は、まさしくオミックス解析の出番です。

最後に、今後の目標を教えてください。

これまで我々がオミックス解析していたのは動物モデル、培養細胞でした。しかし、それでは薬が作れない現状が見えつつあります。現状を打ち破るステップとして、実際の患者さんからデータをとる事が考えられますが、1分子ずつELISAやウェスタンブロットでやっていたら間に合いません。そこに、オミックス技術は活躍すると思っています。臨床応用に向けては、スループットやデータの信頼性、再現性、比較可能性などが従来の課題でしたが、我々はそれを乗り越えようと努力してきました。現在、AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)の「潜在疾患マーカー同定による新規創薬基盤技術のフィージビリティ研究」というプロジェクト*に参画し、Axceleadはメタボローム解析を担当しています。このプロジェクトは、1000~10000人規模のヒト血漿からメタボローム・プロテオーム・リピドームのデータを取り、機械学習させて疾患を予測できないかという研究ですが、これら質量分析のビッグデータを測る際に課題となるのが実験間差です。同じサンプルを測っても、測定した日が異なるとデータにバラツキが出ていました。しかし、そのバラツキを解決する方法をAxceleadで見出しつつあります。この補正方法を用いることで、例えば1万人規模の患者さんを複数回に分けてデータ測定しても、今日測ったデータと来年測ったデータを正しく比較することができ、1万人規模のメタボロームのデータベースを作ることができます。
患者さんからのデータを元に創薬シーズを発見し、それを製品にフィードバックする、そして、薬ができない現状を打破する、それが今の目標です。

navigate_next「潜在疾患マーカー同定による新規創薬基盤技術のフィージビリティ研究」に関するニュースリリース